「木の教え」塩野米松 ちくま文庫

(2019.11.17)

「木の教え」塩野米松 ちくま文庫

タイトルを見て手に取ってみて、購入しました。

冒頭の
「学ぶことの基本は驚きです。」
驚きは新しい知識につながるのです。
は、
とても共感するフレーズです。

私は木材卸売業を営んでいた父を持ち、自身も10年くらいは銘木屋やその業界にいたこともあり、
木に関することは身近な存在であります。

タマンネガラのジャングル(2017.06)

とても密度の濃い内容となってます。
興味深いところをピックアップして紹介します。

・現代人は科学という新しい知識を手に入れ、効率第一主義の道を選んでしまいました。
一本一本個性のある木を、まったく同一のものとして扱うことを選択したのです。
ー中略ー
この考え方は人間においても用いられ、
社会は人々をみんな同じ性格、同じ素質のものとして扱おうとしています。

・木は二つのいのちを持っている。
一つは植物として。もう一つは木材としてのいのちです。

・木には必ず癖があります。
癖がないものとして製材し、建物をつくってしまうと、
木は建物になってから癖を出しはじめます。
ケヤキという木は「暴れる」木です。
癖を出させるために寝かせてから使っても、
ねじれたり曲がったりすることがあります。

・いのちを使いきる
一枚の板、一本の柱でも、寿命のある限り何度でも使います。
そのために伝統的木造建築は、
はじめから解体できるようにつくってあります。

・現代の技術と古代の日本人の技術者たちの間には、
考え方に大きな違いがあります。
最後まで使おうという智恵は、建物や舟をつくるときにはもちろん、
木を伐り出すときから選ぶときにまではたらきます。
効率優先の考えでは、どの方法が速いか、どっちのほうが安いかが基準になります。
ー中略ー
じつは木の生かし方、木の使い方に関しては、
現代人より飛鳥時代の大工のほうがすぐれていたといえるでしょう。

島原・雲仙にて(2019.04)

・こけら屋根
こけらという言葉を知っていますか?
漢字では「杮」と書きます。
武家屋敷や昔の民家の屋根、塀などには薄く削った板で葺いたものがありました。
今でも神社などの古い建物には、
この薄い板で葺いたものがあります。「こけら葺き」といいます。
薄い板が重なり合い、微妙なやわらかさを持った美しい屋根です。

・水中貯木
水の中に長い間漬けておいた木は乾燥が早いというのは不思議です。
宮大工さんが次のように話していたそうです。
「水中に置いておいた木はいいですよ。
色も穏やかで、香りも違います。檜なんかでも軟らかさがでます。
水が木の中にしみ込んでいないかって?
それはないですね。
水の中に五年も入れておいた木を切って中を触ってみますと、
ほわっと暖かいんですよ。不思議ですね。
決して水は浸みませんし、むしろ水の中で乾いていると思いますね。
木は不思議ですね」

・日本には「木元竹裏」という言葉があります。
これは古くから伝えられてきた言葉で、
木を割るときには「元」(根元側)から、
竹を割るときには「裏」(梢側)から割るといいという意味です。
しかし、さまざまな地方の木や竹に関係する方に聞いてみましたが、
必ずしもそうではないようです。

タマンネガラのジャングル(2017.06)

・山の木を資源として使う人たちは「親木を残す」ことを掟にしていました。
親木とは元になる木、種をまく木、そこから増えていく元になる木のことです。

・「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言われます。

木や山の教えから効率最優先の現代文明をもう一度見直すなど、
読む人それそれにとって示唆を汲み取ることが出来る好著だと、
丹羽宇一郎さんは述べて解説を締めくくっておられます。

日本人にとって身近な存在である「木」について、
造詣を深める書としてとてもおススメできると思います。

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